猛火

陽炎の向こう

確かに見たんだ

今より少し歳をとった僕

赤信号の向こう側

自信と優しさ纏って

笑っていた


蜘蛛の糸のように

ふとした瞬間に

絡みつく不安を

振りほどけずにいた


なりたかったような

自分じゃないことを

良しとしないことだけ 約束にして


焦(じ)れる心と

陽炎の声が

まだ進めると

残酷にも言う

知らなかったんじゃない 

気づこうとしなかった

奥底の火種が

燃え上がる


もう止まれないことに

気づいた時には 

この身を走らせていた

ねえどこへ行こう

焦げ付くスニーカーが

ただアスファルトを蹴った

いつか見た幻に

この未完成の身体

重ねに行く


しとど雨の今日に

燻ぶる信念は

エンジンになれずに

喉の奥に落ちた


薄まった時間に

身を沈めるうちに

足先に霜が降り

動けなくなっていた


それでも胸の

奥のまた奥で

小さな核が

じわりと灯って


もういちど激しく

衝き動かす何かを

再燃の契機を

待っている


もう進めないことに

気づいた時には

憧れの記憶を見る 

まばゆく燃えて

迷いごと塵にする

激しい熱で踏み出す

いつか見た幻を

嘘にしてはならないと

重ねに行く


陽炎の向こう

確かに見たんだ

今より少し歳をとった僕

赤信号の向こう側

自信と優しさ纏って

笑っていた


あの場所に

この手届くまで

もう止まれないことに

気づいた時には

この身を走らせていた

ねえどこへ行こう

焦げ付くスニーカーが

ただアスファルトを蹴った

いつか見た幻に

この未完成の身体

重ねに行く

阻むものも焼き切って

重ねに行く 

インゲン

1996年生まれ。作詞家を志してからというもの、架空の歌詞を書いています。

歌のない歌詞